衆院本会議で4月16日、共同親権を導入する民法改正案について道下大樹議員が討論を行いました。

◆法制審の議論と改正原案

 法務大臣の諮問機関である法制審議会家族法制部会は、離婚後の共同親権導入などを巡り3年近く議論し、意見対立した末、民法改正要綱案を賛成多数で了承しましたが、参加委員21人のうち3人が反対。また慎重派委員の訴えにより追加した附帯決議は、不十分な内容だとして2人が反対しました。

 家族法制部会長は「全会一致が望ましかったが、今回は異論が残り採決になったほか、附帯決議も付けた。異例だ」との所感を述べました。その所感や反対・棄権した委員の懸念は残念ながら的中し、部会での審議内容やパブリックコメント、附帯決議は十分には反映されず、さらに関係府省庁間の事前協議や検討が不十分なまま、生煮え、玉虫色の「民法等の一部を改正する法律案」が今国会に提出されたと言わざるを得ません。

 法定養育費制度の導入など一定評価できる部分もありますが、この改正原案の肝である離婚後共同親権の導入は、子の監護や財産管理などを離婚後も行いたい、親子交流を何とか実現したいと期待する賛成派と、参考人質疑で「この場に立つことはとても怖いが、DV被害者の仲間たちの応援を受けて、国会で想いを伝えることに決めた」と陳述された参考人のような反対派と、意見や価値観が大きく分かれる非常に重たい法案であり、慎重な議論を進めてきました。

◆委員会答弁で明確にしたこと

 この生煮え、玉虫色の原案に対して、わが会派は委員会質疑で問題点や懸念を浮き彫りにし、政府答弁で明確にすることによって、立法者の意思、国会、政府の意思を築き上げてきました。

 この原案の重要部分である離婚後の親権については、共同親権、単独親権どちらも原則ではないこと。日本も批准しているハーグ条約は、日本に共同親権の導入を求めるものではないこと。偽装DVであるとか不当な子の連れ去り・略取誘拐だと一方の親を罵り犯罪者扱いすることは人格尊重義務を損ねること。親権者を単独にするか共同にするかと親子交流とは別物であること。父母双方の合意がない場合、裁判所が共同親権と認め得る場合が極めて限定的であることなどが答弁で明確になりました。

 また急迫の事情の例として、入学手続きやDV避難、緊急の医療行為、モラルハラスメント、中絶手術などが挙げられることや、監護及び教育に関する日常の行為の例として、子の心身に重大な影響を与えないような治療やワクチンの接種、習い事の選択やアルバイトの許可などを挙げた答弁が出ました。

 海外では、共同親権を推進し、親子交流の実施などの法改正をしましたが、実はそれによって別居親が子を殺害するなど子と同居親の生命身体に深刻な事態を生じさせることが多発、葛藤的な共同養育(コペアレンティング)は子と同居親に悪影響を与えました。

 離婚が子どもや当事者に及ぼす長期的影響に関する権威であるアメリカの心理学者ウォーラースタイン博士が最も訴えたかったことは、裁判所の命令のもとで、厳密なスケジュールに従って均等的・強制的に行われる親子交流は、子の成長に有益どころか有害であること、子どもの心身に取り返しのつかないような事態を生じさせるということでした。

 近年、多くの国々は共同親権(ペアレンタル・オーソリティ)から共同監護(ペアレンタル・カスタディ)、共同養育、そして親責任(ペアレンタル・レスポンシビリティ)へと改正しています。日本だけ1周遅れで共同親権を導入しようとしていることを英語訳で説明し明確化しました。

◆残された問題・懸念

 それでもまだ問題や懸念は残っています。

 裁判所が親権の指定または変更について判断するに当たって、子の意見表明権の規定がありません。

 共同親権下でも親権の単独行使ができるとする「急迫の事情」とはどれくらい差し迫った時間的範囲を指すのか、「監護及び教育に関する日常の行為」とは何が当てはまるのかは依然として曖昧です。

 監護者の定めを義務付けないデメリットや、子への支援が減少する不利益となるおそれ。協議離婚により共同親権を選択する合意型共同親権であっても、DV・虐待・父母の葛藤が激しいケースが紛れ込む危険性。裁判離婚で裁判所がDV被害を認定せず、父母双方を親権者と定める非合意型強制共同親権が、子や父母一方を危険にさらすリスクが高まる可能性。また離婚前後と協議中の相談支援体制の整備が不十分なまま、法施行のみが先行してしまうことの危惧もあります。

 共同親権を巡る裁判や調停が新たに発生しますが、家庭裁判所の裁判官及び調査官などの人員・施設体制は今でさえ十分と言えません。

 現行の親子交流では、家庭裁判所による決定により、別居親と親子交流を嫌がる子どもを無理に親子交流させているケースもあります。養育費や同居親の親権のために、我慢して傷つく子どもが現れないよう、適切な親子交流の実施について検討が必要です。

 養育費の公的立替払い制度が実現できなかったことも課題です。

◆合意した修正案

 そこでわが会派は、さまざまな問題点や不安、懸念を払拭すべく、11項目に及ぶ修正項目案を与野党に提案し交渉を重ね、合意した修正案はわれわれの案を全て反映したものとは言えませんが、最低限盛り込まれたものであり、原案のまま運用されることによって生じる被害を少しでも軽減できると判断しました。

 修正案は、子の監護者の指定の重要性について父母が理解と関心を深めることができるよう必要な広報・啓発活動を行うこと。「急迫の事情」や「監護及び教育に関する日常の行為」の意義など趣旨内容について国民に周知を図ること。協議離婚における親権者の定めが父母の双方の真意に出たものであることを確認するための措置等を講ずることです。特に協議離婚における共同親権同意の真意の確認措置を明記できたことは大きな成果です。

◆賛成した附帯決議

 わが会派も提出者となった附帯決議は、政府及び最高裁判所に様々な事柄について格段の配慮を求めています。

 必要に応じて法改正を含むさらなる制度の見直しの検討。「急迫の事情」「日常の行為」「子の監護の分掌」等についてガイドライン等で明らかにすること。子の意見の適切な反映。子の監護の安全や安心への配慮。養育費の受給等適切な実施や公的立替払い制度の検討。家庭裁判所の人的・物的体制整備。DVや児童虐待の防止に向けた加害者プログラムの実施推進。居住地等がDV加害者に明らかになること等によるDV被害・虐待・誹謗中傷・濫訴等の被害発生回避措置の検討。子に不利益が生じないよう税制、社会保障、社会福祉制度等において関係府省庁が連携して対応することなどがその内容です。

 急迫の事情、日常の行為のガイドライン等を決める場合、関係府省庁のみの閉鎖的な環境で議論策定するのではなく、当事者を含めて外部の意見を取り入れ、公開された中で策定されることを強く望みます。

◆約束

 わが会派が修正合意したことで批判を受けていることは事実です。批判をされる方々はわれわれと法案の問題点を指摘しあった方々で、本当に辛いです。法案に反対の姿勢を貫いてほしいという気持ちもよく分かりますしそのほうが潔いでしょう。党内で賛否に悩む議員も多くいます。私もそうです。今もなお恐怖に怯えながら生活しておられる子とDV被害者の方々の気持ちを思うと胸が締め付けられます。

 ただ、この原案に反対を貫いたままだったら何が起こるのか、とても怖いものがあります。今の政府や一部の政党・議員に勝手なことをさせてはならない。わが会派が粘り強く関与し、家族法制度の運用に好影響を与え続けることが、不幸になる人を少しでも減らせると判断し、ギリギリの選択をしました。

 立憲民主党は、この法案が少しでも良くなるよう参議院審議でも尽力するとともに、政府・法務省ならびに最高裁判所が、委員会審議における質疑答弁、原案に対する修正案、附帯決議で示された方向性や意味合い、我々の真意をきちんと理解して今後の調停・審判に臨み、適切に法制度を運用・措置するよう、立法府としての監視機能を働かせていきます。

 そして改正法の問題・懸念を完全に払拭するために、今日告示された衆院3補選で勝利し、そののちに政権交代して法改正を実現することをお約束いたします。

 その思いを胸に、本法案に対する賛成討論を終わります。

民法改正案賛成討論 道下大樹議員 20240416.pdf

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