立憲民主党 地域公共交通課題検討ワーキングチーム
中間取りまとめ

 人口減少や少子高齢化が加速度的に進展し、とりわけ地方部からの人口流出は著しく、過疎地域は面積でみると国土の6割を超えている。頻発・激甚化する災害など、取り巻く環境が極めて深刻な状況にある地域公共交通について、直面するさまざまな課題や、その課題に対応するための取り組みや支援制度のあり方を示していく必要がある。

 地方部においては特に公共交通は必要不可欠であることは生活者、事業者、自治体、国すべてが共通する思いでありながら、問題の対応と解決の議論を避け、先送りが続く中で、さらに人口減少が進み、事業環境が厳しくなるという悪循環が続いている。この連鎖の動きを変えるべく合意形成の舞台が必要であり、そのための環境整備の機会をつくらなければならない。国として事業者と自治体、国による協議会を設置するよう環境整備が諮られようとしているが、以下の諸点が重要である

1.地域が直面する課題に対応するための合意形成の舞台をつくること

 焦点となるのは、地域の関係者が参画する協議会(再構築協議会)の場が、地域が直面する課題に対応するための合意形成の舞台として機能できるかどうかである。国は関係する地方自治体が関与できるようリーダーシップを発揮し、交通ネットワークの維持に努める必要がある。

(1)廃線やBRTへの転換等の出口が決まっているわけではないこと
 再構築協議会では、結論ありきではなく、それぞれの地域において地域の将来像を十分に協議し、最も望ましい公共交通について、住民や交通従業者等の意見を十分に聴くとともに、利用者の目線に立ってファクトとデータに基づき協議し、合意形成を進めるべきである。

(2)出口での国の支援に差が無いこと
 上下分離による鉄道の維持やBRTの導入など、再構築協議会で合意された事業に対し、国は協議の結果のみならず、協議の過程にも配慮し、十分かつ公平な支援を行うべきである。

(3)自治体のまちづくりの中に公共交通を位置づけること
 住民の通学や通院の移動手段といった教育や医療・福祉政策との連携を図り、人口減少社会の中での地域の将来像を十分に協議し、鉄道や路線バス、デマンド交通・タクシー等の輸送モードが相互に連携した総合交通政策として地域公共交通を推進できるよう、自治体等の関係者が冷静に議論できる環境づくりを行わなければならない。

(4)自治体や事業者負担の軽減化を図り、彼らの立場に寄り添う形で規制や運用の緩和をすすめること
 再構築協議会で合意された事業については、国土交通大臣も構成員として参加して、協議されたものであることから、国は、自治体や交通事業者の立場に寄り添い、財政的負担や人的負担の軽減のための措置を講じるとともに、規制や運用の緩和など手続面での負担の軽減を図るべきである。
 なお、2019年度から鉄道事業者・沿線自治体等による協議会を設置し取り組んできた北海道等、既存の協議会の費用や実証事業についても、新たに設置される再構築協議会と同様に支援の対象とすべきである。

(5)自助努力には限界があり、単なる数字や経済合理性のみで判断しないこと
 地域の交通事業者の自助努力には限界があり、大幅な旅客増や収支改善を期待することは難しい。再構築協議会における協議に当たっては、地域住民の通院や通学のための移動手段の確保などの生活基盤の維持の重要性を十分考慮し、低い輸送密度や赤字路線であることなどの経済合理性のみで存廃を判断すべきではないことを明確にすべきである。

(6)雪国などの地域特性を考慮すること
 我が国には、豪雪などが多発し、除雪費用等の厳しい自然環境に対応するための追加費用が発生する地域があり、このような地域特性を考慮した施策を講じる必要がある。再構築協議会で合意された事業において、地域特性に配慮すべき事項がある場合は、国は、これを考慮したきめ細かな支援を行うべきである。

(7)地域・事業者の責任感と納得感が重要であり、意見反映のさらなる仕組みを検討すること
 再構築協議会における合意は、自治体や交通事業者、住民等の幅広い関係者が納得し、当該合意の実施に向けて、それぞれが責任感を持って取り組むことが重要である。しかしながら、少数意見等が当該合意に反映されないことも想定される。例えば、反対運動などを招かないよう、国は、こうした反映されない意見等を継続的に汲み取るための更なる仕組みづくりについて検討すべきである。
 以上の観点から、協議会における議論については、一定の時間的なめどを付けながらも、鉄道からバスに転換するなどの現状変更を伴う協議会であるならば時間的制約を設けず、丁寧な合意形成に努めること。

2.事業と地域の持続可能性を高めるため、公共的利益の観点から国の財政的支援が十分であること

 公共交通は表面的な金銭での損益ではなく、公共的利益の観点がそもそも必要である。だからこそ収益面のみでの鉄道の廃線からバス等へ転換を図っても事態の改善にはつながりにくく、人員配置にも問題が生じてきてしまう。事業と地域の持続可能性を高めるにはやはり国の関与、取り分けてさらなる財政的支援が必要となる。

(1)社会資本整備交付金、防災・安全交付金など目に見える形での予算付け
 公共事業関係予算を地域公共交通に積極的に活用することや通学定期の割引をはじめ、障がい者割引やバリアフリー化などに対し、文教予算や福祉予算等の関係予算を活用する等の分野横断的な支援を検討するべきである。また、各種施策を行うに当たって必要な社会資本整備交付金等の予算は、特に事業者に対して具体の支援対象や支援額を計画的にわかりやすく示すべきである。
 なお、コロナ禍により甚大な影響を受けている地域公共交通を支援するため、膨らんだ借入金の返済に対する支援を継続・強化する必要がある。

(2)実証実験などの試行期間のみならず、出口以降の中長期的な支援の仕組みを作ること
 地域公共交通の持続可能な発展を図るためには、実証実験などの試行期間のみならず、それ以降も活用可能な中長期的な支援の仕組みが不可欠であり、そのために複数年度にわたって活用可能な予算を措置すべきである。

(3)道路関連予算偏重から、地域の移動手段を守るという観点へのバランスを考慮した予算への転換をはかること
 令和5年度一般会計予算のうち公共事業関係予算をみると、政府全体では約6.1兆円(国費)、うち国土交通省において計上される道路関係予算は約2.1兆円(同)となっている。一方で、地域公共交通関係予算は、例えば、鉄道関係では約0.1兆円(同)に留まっている。
地域においては、人口や利用者の減少により鉄道や路線バスの廃止、減便が相次いでおり、高齢や障がい等により自動車運転免許証の保有が困難な者の移動手段の確保が重要な課題となっている。
 そのため、過度なマイカー依存にもつながりかねない道路関係予算偏重から、地域の移動手段を守るという観点へのバランスを考慮した予算への転換を図るべきである。
 新幹線延伸にともなう並行在来線の問題については、従来の考え方からさらに、地域社会の維持や物流の観点も踏まえた上で、先行地域も含めて支援を考えていくこと。
 鉄道ネットワークの維持は、環境や観光の観点のみならず、災害時の貨物等の迂回輸送等、災害対策、国土及び経済の安全保障の観点からも考えていくこと。また、地域公共交通が失われることで、新たに生じる医療機関へのアクセスコストの増加、観光業への打撃、商業的な損失、地価の下落など、広範なクロスセクター効果について十分に検討が行われるべきである。

(4)ハードへの投資のみならず、ソフト・人への投資が必要であるとの認識を強くすること
 地域交通の利便性向上等のためには、施設整備や車両の更新等ハードへの投資も重要である。それのみならず、地域公共交通事業者においては、これらを運用する運転士をはじめとした人員の確保に向けた取組が急務となっている。地域を含め全国的にバスやタクシーの運転者は長時間労働や低賃金などの労働条件から、人手不足の状況にある現状を踏まえ、人員の確保に向けた事業者の取組に対する支援を行うべきである。
 また、地域公共交通を持続可能なものとするためには、官民が一体となって取り組む必要がある。その際、中心的な役割を担う自治体がその役割を十分果たすためには、交通政策に精通した職員の確保と育成が極めて重要であり、それを担保するための地方交付税による財政措置を含めて、直ちに取り組むべきである。
 これらを踏まえ、ハードへの投資のみならず、ソフト・人への投資が必要であると強く認識するべきである。同時に、少子高齢化のなかでは自動運転技術等、車両技術・安全確保技術の開発・実用化の促進を図り、社会の変化や技術の進化を柔軟に取り込み続けることも重要である。

 移動手段の繋がりは人の繋がりであり、経済の繋がり、しいては国土の維持・発展そのものである。明治以降、戦後、さらには高度成長期などその都度鉄道や自動車(自家用車・バス・タクシー)などその比重や民間の役割、国策としての投資や支援も変化を遂げてきた。いまここで私たち立憲民主党は近代日本が初めて経験する加速度的な人口減少社会を真正面から捉え、生活安全保障の観点から、地域に寄り添い、人の暮らしに寄り添い、事業者・働く仲間に寄り添う地域公共交通政策が必要であると考え提言し行動していく。

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